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2023.12.20

ドローンとAI画像認識技術を活用した牧草地でのスポット除草技術開発のご紹介

 

北海道には全国の約85%にあたる約50万ha*の広大な牧草地が存在し、除草などの維持管理に多くの人手と資材がかかる課題を抱えているといわれています。

この課題解決に寄与すべく、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部ドローンサービス部門とホクレン農業協同組合連合会様(以下、ホクレン、敬称略)など複数社の協力で牧草地の除草の省力化・低コスト化をめざす取り組みを進めています。

具体的には、ドローンおよび AI 画像認識技術と部分除草技術を組み合わせて、雑草の多いエリアへ部分的に必要な量の農薬を散布できるモデルの構築に取り組んでいます。これにより、北海道の牧草地管理の課題解決をデジタルで支援し、持続可能な社会の実現をめざしています。今回のトピックスでは、2023年9月に北海道阿寒郡鶴居村で行われた実証実験の様子を紹介します。

*参考:農林水産省HP

デジタルを活用した牧草地管理により、食料自給率向上へ貢献

NTTドコモグループは、2019年より北海道庁のICT牧草生産実証事業の事業実施主体に採択され、牧草の生産効率化に向けた実証実験を北海道各地で行ってきました。

その一つとして、牛の放牧管理や牧場の施設(柵や建物)管理など人の手で行っていた作業をドローンで代替する取り組みを進めています。この取り組みの中で、酪農家の方々から牧草地の雑草対策を求められていることがわかってきました。そこで、かねてからドローンやAI画像認識を活用し、作物の病気や雑草を発見する技術を持っていたNTT Comが、鶴居村の牧草地で実証実験を行うこととなりました。

現在の雑草対策としては、数haに及ぶ広い農地を人が歩き回り、雑草の場所について目で見ておおよその記録をつけるというアナログな方法がとられているケースが多いといわれていますが、ドローンを活用することで雑草の正確な緯度・経度情報を取得できるため、誰が実施しても高いクオリティで雑草の位置情報を記録することができます。

実証実験は以下の2つのステップに分かれています。

(1)センシング(ドローンやAI画像認識)を用いた牧草地の雑草検出・位置特定実験

(2)部分散布可能な作業機械を用いた特定エリアに対する自動農薬散布による除草実験

 

雑草ピンポイント駆除技術は、以前から北海道庁と行ってきた牧草生産実証事業を通して確立してきました。今回の実証実験の目的は、技術導入によるコストと効果を数値化し、酪農家の経営改善効果を検証することです。

高齢化や後継者不足といった問題を抱える酪農業界では、牧草の品質と収量を確保するのに必要不可欠な牧草地の植生管理、飼料調製作業の担い手不足が強く懸念されています。そういった背景もあり輸入飼料が増加しているなか、昨今の国際情勢や円安の影響による輸入飼料価格の高騰によるコスト増により畜産経営の収支をひっ迫するという問題も起きています。

デジタル技術の活用によって牧草地の管理を効率化し、飼料の自給率を向上させることで、持続可能な畜産経営の維持や、日本の食料自給率向上へ貢献したいという考えのもと、今回のような実証実験に取り組んでいます。

センシング技術により雑草を検出し、部分的に農薬散布

今回実証実験を行った牧草地には、エゾノギシギシやタンポポ、オニアザミなどの雑草が所々に生い茂っています。

実証実験の手順としてまず、ドローンの自動飛行により牧草地全体の自動撮影を行い、撮影した画像をAIが認識、1株単位で雑草を検出し、位置情報(緯度・経度情報)を記録します。この記録した雑草の位置情報から、株単位に加えて、その後の農薬散布幅である3m×3mのメッシュ単位での雑草位置を表示することにより、牧場全体で俯瞰(ふかん)して確認することも可能となります。

今回の取り組みでは、このセンシング技術を導入することにより、雑草の検出・記録にかかる時間を、100㎡あたり50%以上削減することをめざしています。(12分から6分)

検出した雑草の位置データからセクションコントロールスプレーヤーや小型農薬散布ロボット、農薬散布ドローンと連携可能な散布マップデータを生成することで、部分的な農薬の散布が可能になります。トラクターでけん引するセクションコントロールスプレーヤーでの農薬(除草剤)散布では、農業機械メーカーの株式会社ビコンジャパン(以下、ビコンジャパン)と協力しています。このセクションコントロールスプレーヤーでは3m間隔で農薬の散布をコントロールでき、ピンポイントでの農薬散布の実現が可能です。

また、小型農薬散布ロボットは、小回りが利く自動操縦が可能で、6〜7時間連続稼働させられるため、別の作業と並行して農薬散布を進めることができるのも特徴です。

さらに、地上機だけではなくドローンの自動飛行による空中散布も可能となるため、作業場所の環境、作業の進め方、コストなど、農家の要望に合わせて農薬散布方法を選ぶことも可能です。

鶴居村では、6月、9月と年に2回牧草の収穫期を迎え、それぞれ1番草、2番草などと呼ばれています。収穫のタイミングごとに撮影・雑草のある箇所へのピンポイント農薬散布を行い続けることにより、牧草地の雑草を格段に減少させていくことが可能です。

1番草刈り取り後(7月)に行った実証実験では、次のような結果を得られました。

 セクションコントロールスプレーヤーで散布した箇所    小型農薬散布ロボットで散布した箇所 
 農薬散布量  62.5%減  33.4%減
 雑草検出量
 (散布後約2カ月後の9月時点)
 79.6%減  58.9%減

もともとの雑草量によっても効果が変わりますが、農薬使用量が削減され、雑草量も減少していることがわかります。また、雑草が減って牧草の品質が向上することで、牛の搾乳量や生乳の質の向上につながることも期待できます。

技術実証のみにとどまらず、生産者であるホクレンや農事組合法人清和農場、ビコンジャパン、ホクサン株式会社(農薬メーカー)、釧路丹頂農業協同組合と共に、実際に農家が導入した際の効果や実現性を考慮しながら実証実験を進めています。

今回の検証では、作業時間やコスト(農薬などの資材代)の削減によって、生産者の利益率を100㎡あたり10%向上させることを目標とし、一次産業を支えるパートナーに寄り添い、農業の現場に踏み込んだ実証実験を行うことにより、新しい価値提供を行うことを目指しています。

今後の展望について

本プロジェクトを担当するNTT Com ドローンサービス部門の中川主査に今後の展望について聞きました。

ー実証実験以降の展望は?
「今回行ったのは実証実験ですが、今後どのように社会実装していくかが重要だと考えています。牧草地の雑草対策は、資材のコスト高・人手不足の2つの問題があり、対策がされないまま放置されています。今回の取り組みを除草作業の部分的な補助技術として導入できれば、少ない人手・少ない資材で雑草対策をすることができます。」

ー今後の目標は?
「牧草の国内生産量は減少しています。国内生産を支えるためのサービスとして使っていただくことが目標です。2025年度には実際に農家の皆さんに使っていただけるよう、今後も実証実験を進めていきます。」

牧草地だけでなく畑作や酪農など幅広い分野のスマート農業に、ドローンをはじめとしたドコモビジネスの技術が活用されています。農業DXを通じて日本の農業全体を活性化させ、日本の農業の未来に貢献できるよう今後も取り組んでまいります。

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